「 美しい風に 」
2016-09-15


「 美しい風に 」



美しい風に出逢うために美しいことばなどどうか捜さないでくれ
夜がにじみでる波間には空を渉ってきた無数の笛が繋留されてよるべなく揺れている
そこにはみなもを滑って幾重に砕ける月の炎(ホムラ)を浴びる海鳥が風のこころをまねて
うつろに漂っているだけじゃないか


闇に溶けた波がときおり月の明かりを受けていかにもまばゆく輝くとしても
隆起しあるいは下降するあわただしさにわたしたちの心が同期して描いてしまうものは
いずれ闇に沈む波紋のおりなす悪戯にすぎぬもの
飾り立てる小彗 つかのまの泡立ち メドゥーサの首


表されるべき音韻は新月のさなかに生まれ落ち
照らされぬことない潮騒となってはじめて語り出す
美しい風がどこから訪ねてくるかはそのときはじめて想えばよい


言葉が美しいという神話など潔く潮の流れに放擲してくれ
言葉にからめとられたわたしたちの失意をこそ信じ       
言葉の傲慢に顔を赤らめるわたしたちのはじらいをこそ波間に求めてくれ
[詩]
[ざれごと]

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